地位協定改定 今度こそ、本気で交渉を

 

2012425 10:51 カテゴリー:コラム > 社説

 日米両政府が在日米軍の法的地位を定めた日米地位協定の改定に向け、新たな協議機関を設置する方向で調整に入ったという。30日に予定されている野田佳彦首相とオバマ米大統領の首脳会談で設置合意を目指す段取りのようだ。

 

 日米地位協定が結ばれて52年になる。この間、日本政府が協定見直しを米政府に公式に提起したことは一度もない。その意味で、改定に向けて協議機関を設けること自体は評価したい。

 

 「地位協定の見直しを提起する」ことは民主党の政権公約でもある。野田政権は今度こそ、在日米軍に特権的地位を与えた現行協定の「不平等規定」の抜本的な改定を目指すべきだ。

 

 米側の好意的考慮に頼る運用改善ではいつまでも協定の不平等性は続く。

 

 沖縄をはじめ佐世保や岩国など米軍基地を抱える地域が求めているのは、米軍統治下でもないのに日本の主権が行使できない「理不尽」の解消である。

 

 安全保障条約に基づいて駐留する米軍人といえども、日本国内で日本人の生命財産に危害を加える犯罪や事故を起こした場合、日本側の統制の下に捜査が行われ、日本の法律で裁かれる。

 

 主権国家なら当然のことである。しかし現実はそうなっていない。

 

 地位協定では、米軍人らの犯罪容疑者は日本側が現行犯逮捕した場合を除き、起訴されるまでは原則として米側が身柄を拘束すると規定している。これでは十分な捜査ができるわけがない。

 

 捜査権だけでない。公務中の米軍人・軍属らの犯罪に対する裁判権は一義的には米側にある。しかも「公務」かどうかの判断権は米側が握っている。

 

 こうした不平等規定は、1995年に沖縄で起きた海兵隊員らによる女児暴行事件をきっかけに、その後の日米協議で運用面での改善は図られてきた。

 

 殺人や強姦(ごうかん)など凶悪犯罪容疑者の起訴前引き渡しや、飲酒運転については「公務としない」ことなどが実現したが、その判断は依然、米側の裁量に委ねられている部分が多い。

 

 民主党政権が「対等な日米関係」を言うのなら、地位協定の抜本的な見直しを米側に公式に提起し、不平等性の解消に全力を挙げるべきである。

 

 その協議の場で米側の捜査権、裁判権が及ぶ範囲を基地内にとどめ、米軍関係者が基地外で起こした事件・事故は原則として日本の法律で裁けるよう、協定本体の改定を実現する。

 

 それが、「差別協定」ゆえに米兵らの犯罪に泣き、人権を踏みにじられてきた沖縄の切実な願いである。野田政権には本気でそれに応える気概を求めたい。

 

 ただ、協議機関設置の裏には、行き詰まった普天間飛行場移設問題で沖縄の妥協を引き出す思惑も透けて見える。もしそちらが主眼なら、協議機関設置はやめた方がいい。民主党政権に対する沖縄の不信を深めるだけだ。

 

 

2012/04/25 西日本新聞朝刊=